バイタルデータ特有の注意点

この章では、JINS MEMEやフィットネストラッカーのような医療機器ではないウェルネスデバイスが生成するバイタルデータを分析する際の基礎的な知識について解説します。

各センサーの特徴

JINS MEMEのデータの活用を検討している場合、他のデバイスでは取得が難しい指標を取り得るということがあるかと思いますが、他のデータと比べるとそれぞれ下表の特徴があります。

指標取得デバイスシグナル強度シグナル特徴変動周期反映している生体現象静止時取得率運動時取得率
心拍数(HR)LED+光量センサー周期的5-10秒運動強度、緊張など95%70%
心拍変動(HRV,PPI,LF/HF)LED+光量センサー状態5-10秒緊張、ストレスなど80%0%
心拍変動(HRV,RRI,LF/HF)アンプ+電位センサー状態5-10秒緊張、ストレスなど99%85%
心電図アンプ+電位センサー状態0.01-1秒(1拍内)心臓の疾患判断99%0-10%
歩数加速度センサー状態0.3-0.5秒歩数、消費カロリー99%99%
活動強度加速度センサー状態1-2秒活性度、消費カロリー99%99%
眼電位アンプ+電位センサー状態1-2秒没入、覚醒など90-95%0-10%
脳波アンプ+電位センサー激弱状態1-2秒相対的な脳活動評価70%0%

※静止時と運動時の取得率に関しては参考値です

馴染みのあるセンサーは心拍数センサーと歩数センサーですが、これらは静止時・運動時でも精度がほとんど落ちないという特徴があり、それは以下の特徴のどちらかによるものです。

  • シグナル自体が強いので、多少のノイズがあってもデータがブレない(歩数)
  • シグナル自体は弱いがシグナルが周期的なため、フーリエ変換などのアプローチによってデータロスをリカバリーできる(心拍数)

例えばLED式の心拍変動測定は心拍数と同じ仕組みを利用するものの、ちょっとしたノイズでピークを逃すため、安定した測定が難しいです。LF/HFといった指標に変換するにはさらに数分間の欠落のないRRI(PPI)データを利用してAR解析が必要なためさらに難易度が高くなります。

メンタルの状態をモニタリングするには一般的に脳波が使用されますが、測定を開始するまでの調整に時間がかかるのと、シグナルが非常に弱く装着位置によっては筋電や眼電位に打ち消されるので使い勝手の良いセンサーではありません。

眼電位センサーは静止時においてメンタルの活動の手がかりを得るために使いやすいセンサーであると言えます。ただし静止時でもメガネの掛け直し、咀嚼などでデータの取れない区間があるため、ある程度のデータの欠落を想定して分析に臨む必要があります。

JINS MEME 各指標とrobustness

眼電位センサーで取得している中間指標とそのRobustnessは下表のようになります。

指標名反映している主な生体現象Robustness(1: weak…5:strong)
まばたき強度の平均値緊張、覚醒3
まばたき強度の標準偏差安定性3
まばたき速さの平均値覚醒3
まばたき速さの標準偏差ーー3
まばたき回数・間隔の平均値没入2
視線移動回数(縦方向)活性度1
視線移動回数(横方向)活性度、発散4

※まばたき間隔に関して、現在は単純平均が使用されていますが、将来的に加重平均に切り替わる可能性があります。

まばたき回数・間隔のデータは、ノイズなどでデータの欠落が発生した場合大きく影響を受けます。JINS MEMEのデータではクリーンな間隔のみ残すような処理は入っていますが、他のデータに比べてRobustnessは落ちます。また、まばたき判定と視線移動(縦方向)判定は、(1)メガネの装着状態によって眉間の電極が浮き判定できなくなる、(2)縦方向シグナルをClassificationしているため、まばたき・視線移動(縦方向)間の偽陰性・擬陽性判定により精度が落ちる、ことがあります。

6軸モーションセンサーで取得している指標とそのRobustnessは下表のようになります。

指標名Robustness(1: weak…5:strong)
歩行振動4
頭部運動(非歩行時)4
最大着地強度4
左右足判定2
姿勢角の平均値5
姿勢角の標準偏差5

6軸モーションセンサーのデータは基本的にはフルタイム使用することができ、最低限の装着を確認するフィルタを通してそのまま使うことが可能です。

新規分析フレームワークの構築難易度

現在提供されている指標以外に新たにフレームワークを作成する、例えば生体センサーのデータ群を利用したClassification(感情を喜怒哀楽に4分類する、など)を実現するようなことは一般的にデータのチャネル数・解像度・精度不足から難易度が高いため、シーンによって条件を絞って1次元評価(楽しい度合いが強いか弱いかを評価する)に落としたほうが結果が出やすいことが多いです。

以下は完全に筆者の主観になりますが、各分析フレームワークの想定構築難易度の一覧です。

フレームワーク構築難易度(1困難…5容易)
動作のClassification2
フィジカル活動強度の指標化4
感情などメンタル活動のClassification1
没入などメンタル活動強度の指標化3